使いこなしのテクニックエフェクターの基礎知識 ~エンハンサ~ 各パラメータの意味を理解して、サウンドに思い通りの効果をつけてみよう
エンハンサは、ぼやけた倍音成分や位相を補正したり、元の信号にはほとんど含まれない倍音成分を作り出して原音に付加するエフェクターです。倍音成分は各楽器の個性を特徴づけるものですが、おのずと原音よりも高い音の成分となりますので、エンハンサを使用することにより、結果的に高域の周波数帯が強調され、音の輪郭をはっきりさせる、楽器などの細かなニュアンスを引き出す等の効果を得ることができます。
単に高域を強調する場合はイコライザを使っておこなうことも可能ですが、設定の仕方によってはミキシングされたトラックごとのボリュームバランスが崩れる場合があります。エンハンサは、倍音成分を補正・補足することによって高域を強調しますので、より自然に高域を強調することが可能です。しかしながら、エンハンサの高域(倍音成分)を強調する効果により、高域にノイズや歪み成分が含まれる場合は、これらが強調されることがあるので、使用する場合は注意が必要です。
エンハンサは内部的に[A]エンハンサ [B]ローブーストのセクションに分かれます。
[A]エンハンサ
DEPTHで、倍音成分の補正・補足の度合いを調整し、MIXで、強調された倍音成分と原音のバランスを調整します。
[1]DEPTH(デプス)・・・(1.0~12.0)
倍音成分の補正・補足の度合いを調整します。設定値が高いほど、結果的に高域が強調されます。補正・補足後の音声成分をエンハンストメント成分と言います。
[2]MIX(ミックス)・・・(0.0~100.0%)
エンハンストメント成分と原音をミックスする度合いを決めます。値は、エンハンストメント成分の値ですので、「0.0」に設定するとエンハンストメント成分は0%、原音が100%となります。
[B]ローブースト
上記[A]エンハンサにより強調された高域に対して、聴感上の周波数バランスを補正するため、低域を増強(ブースト)します。
[3]FREQENCY(フリケンシー)・・・250~2000Hz
フリケンシーとは日本語で「周波数」、ローブーストとは「低域の増強」という意味です。
[4]LOW BOOST(ローブースト)・・・0.0~12.0dB(原音を「0」とする)
設定したフリケンシー値以下の周波数帯域をどれだけ増強させるかを調整します。ローブーストが「0」の場合、フリケンシー値はどこにも影響しません。
フリケンシー値の設定は、以下の表を参考にして下さい。

パートごとの周波数分布
左図はあくまで目安です。個人差や、楽器の個体差があります。また、倍音成分などを含めるともっと幅広い周波数帯に分布します。
一般的に20Hz~20KHzが人間の可聴範囲と言われており、その中でも、3KHz付近の音が一番聞きとりやすく、120Hz以下の低音や5KHz以上の高音は聞き取りにくいと言われています。
~50Hz
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低音の振動に近い帯域。ほとんど耳には聞こえないが、下げすぎると迫力に欠け、上げすぎると圧迫感が出る。 |
50Hz~80Hz
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音に重みを出す帯域。強すぎると透明度がなくなる。 |
80Hz~250Hz
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低音の輪郭を出す帯域。下げすぎると低音がぼやけてしまう。 |
250Hz~500KHz
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中音域の安定感を担う帯域。下げすぎると薄っぺらな印象を与えてしまう。 |
500Hz~800Hz
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中音域のアタック間を出す帯域。音域のほぼ中心で芯になる。 |
800Hz~5KHz
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中音域の高いアタック間を出す帯域。人間が一番聞き取りやすく、下げすぎるとシャープさを失う。 |
5KHz~10KHz
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金属的なシャリシャリ感を出す帯域。下げすぎると鮮やかさを失う。 |
10KHz~
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華やかさを出すのに必要な帯域。ほとんど耳には聞こえないので、少なめでもあまり不自然さを感じない。 |
マウスでつまみを回す操作では、狙った数値が設定しにくい場合があります。つまみを右クリック (Macの場合は、[option]+クリック) すると、直接数値を入力することが可能です。
プリセットについて
あらかじめ用意されているプリセットを例に、どのように設定をすれば良いかを参考にしましょう。
Vocal

ボーカルの音域を目立たせるためのプリセットですので、ローブーストの値を「0」に設定し、低域は増幅しません。
デプスは真ん中程度の5.0、不自然にならないようエンハンスメント成分40%に対し、原音60%をミックスして出力するプリセットです。
DonShari

高域の金属的なシャリシャリ感を強調するためのプリセットです。
フリケンシー500Hz以下をローブースト12.0と最大限に強調しています。デプスは8.0と高めに設定して高域を強調し、エンハンストメント成分60%に対し、原音は少な目の40%をミックスして出力するプリセットです。
ABILITY/Sound it!では、自分で好みのプリセットを作成して保存することが可能です。 テクニカルサポートデータベース:「エフェクターのプリセットを作成したい」を参照して下さい。